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広島高等裁判所 昭和30年(う)116号 判決 1955年6月30日

主文

本件各控訴を棄却する。

当審の訴訟費用は被告人等三名の平分負担とする。

理由

弁護人宗政美三の控訴の趣意は記録編綴の控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

これに対する当裁判所の判断は次のとおりである。

一、論旨第一点について。

本件強姦事犯に対し被害者角森美津枝の親権者である父角森鶴太郎が先に告訴をなし、次いで之を取下げ、更に右美津枝の親権者母角森スエノが告訴をなしたものであることは所論の通りである。しかしながら刑事訴訟法第二百三十一条第一項、第二十八条によれば、犯罪による被害者が未成年者である場合には、その親権者たる父母が各独立して告訴権を有し、しかもその行使は共同でなす必要なく、各自独立してなし得るものと解すべく、又同法第二百三十六条、第二百三十七条に徴すれば、告訴権者が数人ある場合、その中の一人が期間の徒過又は告訴の取下により告訴権を喪失したとしても、他の者の告訴権に影響を及ぼさないものであることが明瞭である。されば前記角森鶴太郎の告訴並びにその取下又びその後になした角森スエノの告訴は夫々適法有効なものといわなければならない。従つて論旨は理由がない。

二、同第二点(量刑不当)

角森鶴太郎が告訴の取下をなしたことは既に述べた通りであるが、之は必ずしも被害者及びその両親等が被告人等の行為を本心から宥恕したためではなく、開拓団関係者の要請により已むなくなしたもので、被害者一家の真意は依然被告人等の処罰を希望しているものであることが記録上明瞭である。この事情に本件犯行の動機、態様その他記録上認められる諸般の情状を綜合考察すると、被告人等に対する原審の量刑は夫々已む得ないところと認められる。論旨は理由がない。

よつて刑事訴訟法第三百九十六条、第百八十一条第一項本文に則り主文の通り判決する。

(裁判長判事 伏見正保 判事 村木友市 石見勝四)

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